イクメンな彼氏

「比奈、大丈夫か!?」
髪が乱れて汗まみれの悠斗さん。
せっかくのスーツもぐちゃぐちゃで鬼気迫る表情をしていて、場違いにも「ふふっ」と笑ってしまう。

「……比奈?」
心配そうな悠斗さんの声に、痛みが走る腕を持ち上げて頬を撫で、「会いたかった……」掠れた声でつぶやく。

身体がぎゅっと引き寄せられて、私の身体はすっぽりと彼に覆われた。
彼の腕の中、安心感に溺れていると後ろで「里谷 洋介だな。誘拐の現行犯で逮捕する」と低い声が耳に届き、金属音が響いた。

沢山の刑事さんと警察署に囲まれて連れ去られる洋介は、抵抗もせず床を見つめて貝のように口を閉ざしたままだ。

「洋介!」私は思わず呼び掛けていた。「……暴力で人を縛ることなんて出来ないんだよ。付き合い始めた頃の洋介の事は、本気で好きだった……」

どうしてそんなに事を口にしたのかはわからなかったけれど、伝えなくてはならない気がした。

洋介の肩が震えて、聞き取れないぐらいの小さな声で呟くのが聞こえた。
「あの時比奈を抱けたら、何か違ったのかな……」

余りにも長い時間が流れすぎて、私も洋介にも答えは出せない。私を抱き締めたまま悠斗さんの腕も震えている気がした。

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