イクメンな彼氏
「よく考えたね。
それならまずは資料を作ってみたらどうかな?
神崎さんはきっと、その人と面と向かっては意見を言いにくいんじゃない?

文章にして読んでもらえば、言いたいこと伝わるんじゃないかな。

ついでにその資料、園長先生にも渡してみれば……って、それはずるいかな?」

テーブルの上のスプーンに必死で手を伸ばす悠理花ちゃん阻止しながら、柔らかい口調でアドバイスをくれる。

……確かに藤本さんと向かい合って自分の意見が言える気はしない。

それに園長先生にも気持ちを伝えておいたら、藤本さんだけの意見で決められなくていいかもしれない。

私はウジウジ悩んでいただけだったのに、中津さんのおかげで光明が見えたような気持ちになった。

「ありがとうございます!
私、プリント作ってみます!!」

ちょうど運ばれてきたカフェラテの匂いが鼻孔をくすぐって、急にお腹の虫が騒ぎだした。

このドアをくぐるまでは、今日は朝ごはんなんていらないと思うぐらい落ち込んでいたのに。

「良かった。頑張ってね」と微笑む中津さんは眩しくて、私は心臓のドキドキを無視することに専念する。

藤本さんと一緒にいる時の緊張とドキドキとは違う。
ホッとして、安心するのにドキドキする。
この相反する感情の意味なんて、私に理解できるはずはなかった。
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