イクメンな彼氏
旅館に戻ってきた私は、一つ深呼吸して部屋の扉をノックする。随分年期の入った、金属の重いドア。

お祖父ちゃんが始めた旅館を、お父さんが継いでお母さんと守ってきた。二人で。

私は好きなように生きればいいと育てられ、私も継ぐつもりはないけれど、無くなるとしたらとても寂しく感じる。

もしも一緒に継いで欲しいと言ったら、悠斗さんは何と答えるんだろう。あり得ない想像をして、ふふ、と笑う。

扉が開いて、悠斗さんが顔を出した。
「お帰り。会いに来てくれてよかった。
おいで」

浴衣を軽く着崩している悠斗さんは、妙に色っぽい。私の姿を見て嬉しそうな顔をして、中に招き入れてくれた。

恋人として紹介しているもののもちろん私たちの部屋は別で、私は高校生まで住んでいた自室に泊まっている。

旅館は一階に家族の部屋と客室2室、二階に客室3室があるだけの狭い造りだ。
悠斗さんの部屋は二階の一番奥。

「こんな時間にごめんね」
私は真面目な顔で部屋に足を踏み入れる。
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