イクメンな彼氏
「こちらこそ本当にありがとうございました。運動会が成功したのは藤本さんのおかげです」

私は深々と頭を下げる。
始めは彼の事を苦手だと思ったし、子どもが好きだとは思えない、なんて思った。

でも今なら彼がどれだけ子どもたちのことを考えていたのかがわかる。本当はすごく真面目でまっすぐな人なんだ。

「そう思ってくれるなら、運動会委員の
打ち上げも兼ねて今度食事に行かない?
一応運動会前は誘うの控えてたんだけど」

完全に忘れていた誘いを不意打ちで投げかけられて、心臓がドキンと跳ねた。

藤本さんのことは嫌いじゃないし、今回のことでよい印象を受けたのも事実だ。

だけど二人で食事は、苦手だな……。
とはいえ随分お世話になったし、せっかく誘ってもらってるのに断るのも悪いよね。

しばらくの沈黙をどう受け取ったのか「彼氏でもできた? それなら食事はまずいよね」と藤本さんが頭を掻く。

「彼氏なんていません!!」

藤本さんの言葉で何故だか浮かんできてしまった中津さんの顔に狼狽して、慌てて大きな声で否定してしまう。

何で中津さんのことなんて考えちゃったんだろ……。

「それならいいかな。
また声かけるよ」

食事くらいなら、別に何があるわけでもないんだし。
私、意識しすぎだよね。
何だか恥ずかしい。

私はコクンと頷き、肯定の意味を示す。

だけど「本当にお疲れさま」と、肩を叩いて踵を返す藤本さんに、私は感謝の気持ちも忘れて後退ってしまった。

この前中津さんに頭を撫でてもらった時は平気だったのに。
どうして……?

やっぱり男の人の手は怖いよ……。
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