イクメンな彼氏
「すごく美味しいよ。本当にありがとう」

なんてお弁当を誉められて、中津さんはすぐに完食してくれた。

「家庭の味っていうのかな?あんまりこういうの、食べたことがなくてね
うちの母親は料理が苦手だから」

最後は呟いて彼は少し寂しそうに笑った。

『それならいつでも作ります』なんて言いそうになって、私は言葉を飲み込んだ。

奥さんに作ってもらうよね。
何バカなことを考えてるんだろう。

頭を振って話題を変えることにする。
せっかく動物園なんだから、動物の話にしよう。

「私の実家では犬を飼ってるんです。
実家は小さな旅館だから忙しくて、余ったごはんを食べさせたり世話をするのが私の役目でした。

しばらく帰っていないけど、いつか自分の家庭を持ったらまた犬を飼いたいなって思ってるんです」

「俺も断然犬派だよ。
バカみたいに真っ直ぐで、いじらしくて見てると抱き締めたくなる。

いつか飼いたいなぁ」

中津さんの目が柔らかくなる。
動物のことをこんなに優しい目で話せる人は、きっと人間にも優しいんだろうな。

だから悠理花ちゃんのことも、すごく大切にしているんだ。

何故だか胸がきゅんと締め付けられるのを感じながら、私は頷いた。

小さい頃は実家の近くに牧場があって牛や馬を見に自転車で行っていた話をすると、中津さんは目を丸くしていた。

東京育ちの彼からしたら、私の実家なんてびっくりすることばかりなんだろうな。
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