イクメンな彼氏
「あっ、あっ」幼い喃語に混じって「こら」「あぁっ!」などという声が耳に入る。

気になって右を向くと、赤ちゃんがコーヒーのカップに手を突っ込もうとしているのが目に飛び込んできた。

男性は鞄をゴソゴソしていて気付いていない。私は考えるより先に身体が動いて、赤ちゃんを抱き上げていた。

「何してるんですか!? 赤ちゃんが火傷しますよ!!」仕事中のように声を張り上げてしまった私は、完全に注目の的だ。

私の声に驚いた赤ちゃんが「ふぇっ、ふぇっ」と泣きそうになったので、ゆらゆらと揺らしてあやす。

「あの……すいません」
おもちゃを掴んだ目の前の男性が、キョトンとした顔で声を発した。

間近で見ると尚更整った顔。肌も透き通るように綺麗で、思わず息を飲む。
どうしよう、思わず赤ちゃんを抱っこしちゃったけど、これじゃ変な人だ。

今は物騒で赤ちゃんの誘拐なんかもあるし、疑われちゃうんじゃ……。

男性と話すのが苦手な私は後退ったけれど、赤ちゃんを抱っこしたままで逃げるわけにもいかない。

「気を……つけてあげて下さい」
やっとの思いでそれだけを口にすると、彼に赤ちゃんを押し付けた。
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