イクメンな彼氏
「CDにしたっていいのに君らしいね。
これでもピアノは得意なんだ。
練習付き合うよ」

有り難い申し出だけど、そんな迷惑をかけるわけにはいかないよね。

「いえ、そんな、悪いです。一人で大丈夫ですから」と断ったけれど、藤本さんは聞こえていないみたいに隣に座った。

「ちょっとアレンジしてみようか」と彼が弾いたメロディは確かに同じ曲だけど、難易度が明らかに下がっていた。

「どうかな……?」

……すごい。
これなら私にも弾けそうな気がする。

「主役は子どもたちの歌声だからね。
難易度の高い曲を弾きこなすことじゃない」

その通りだ。
私は自分が努力すれば何とかなると思っていたけど、たとえ弾けるようになっても余裕がなくて、子どもたちの歌声を楽しめなかっただろう。

男の人が保育士なんて珍しいと思っていたけど、藤本さんは本当に子どもたちが好きなんだな、と思う。

「ピアノは本当に苦手で……教えてもらえますか?」

保育士として尊敬できる人だ。
私は藤本さんに尊敬の眼差しを向けた。
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