イクメンな彼氏
「抱っこして欲しいのかな。よかった。最近人見知りが出てきたんですけど、あなたは大丈夫みたいだ」

あどけない笑顔で手を差し出してくる悠理花ちゃんを見ていると心が和む。
「抱っこしてもいいですか?」
「もちろん」

抱き上げると柔らかい手が私の頬に触れた。よだれで濡れてる手に撫でられても嫌な気がしないのは赤ちゃんの特徴だな、なんて思う。

「お待たせいたしました」
モーニングを運んできた店員さんが、迷った表情見せる。
「あ、ここへ」と彼が自分のテーブルに置くよう頼んだ。

断るのも意識し過ぎているようで不自然で、私は向かいの椅子にそっと腰かけた。

「また会えてよかった。お礼にご馳走したかったんだけど、ここは先払いだからね……」

「いいんです。また、今度で」
返答しながら自分に困惑する。
今度って……何言ってんだろ、私。
今度なんて、もうないよね。

私の動揺には全く気付かない様子の彼は、自己紹介をはじめる。

「この前は、名前も言わずにごめんなさい。
中津 悠斗(なかつ ゆうと)といいます。
すぐ近くに会社があるんだ。このカフェに来たのはこの間が初めてだけど。

一応子連れでも大丈夫そうな店を選んだつもりだったんだけど、もし君がいなかったら散々だったね」

笑うと大きな目が細くなって柔らかい表情になり、少し彼を幼く見せる。

「ここ、穴場なんです。緑に囲まれててカフェがあるって気づかれないみたいで。
長距離バス停留所の近くだから、よくスーツケースをもった人を見かけるんですけどね。
あの、私は神崎 比奈(かんざき ひな)です」

「よく、来るの?」

「だいたい毎日。そこの席で緑を見ながらモーニングを食べるのが好きなんです。
田舎を思い出すから」

「へぇー。田舎って、どこなの?」
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