イクメンな彼氏
「少し遠いけど、コース料理の美味しい店なんだ」と連れて行ってもらったのは雑誌でも紹介されているようなイタリアンのお店だった。

煉瓦造りの外観にはイルミネーションが施され、私たちが案内された個室は暖炉の火が揺らめいてロマンチック。

もちろん料理は文句のつけようがないくらい素晴らしくて、緊張していたのも忘れてぺろりと平らげてしまった。

メニューに記載してあった前菜の海老のマリネが、私の分だけホタテだったのは中津さんの気づかいなんだろう。

当たり前のように向けられる優しさに慣れてしまいそうで時々怖くなる。

どうして中津さんはこんなに優しいんだろう……?
容姿端麗でこんな気づかいまで出来たら、女の子にモテないはずはない。

今までたくさんの女の子と付き合ってきたのかな。
今は……私だけなんだよね。

お手洗いに立った中津さんが戻って来るのが遅い気がして、胸に不安が広がった。

もしかして誰かと電話してるとか……?
どうして中津さんは、私みたいななんの取り柄もないような女と付き合ってるんだろう。

もやもやする気持ちで俯くと、心が落ち着くような心地よい匂いが漂ってきて、カフェラテが目の前に置かれた。

しかも運んで来たのは中津さんだ。

真っ白なコーヒーカップの中には、今流行りのラテアートでハートが描かれている。
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