イクメンな彼氏
「え……?」
目を丸くして右側に立つ中津さんを見上げると、目尻が下がって微笑んでいる。

「遅くなってごめん。
結構練習したんだけど、実は緊張してうまくいかなかったんだ」

『green express』で、ラテアートの話をしたことがあった。
いつもカフェラテを頼む私は、一度見てみたいなぁなんて軽い気持ちで言ったんだ。

そんな一言を覚えていてくれて、しかも私の為に練習してくれた……?

「店長が知り合いでね、作らせてもらったんだ。喜んでくれた?」
中津さんの声に考えるよりも先に身体が動いて、気がついたら唇を奪っていた。

「好きです……」

メインで出てきたビーフの、甘い玉ねぎソースの匂いがした。
唇を離して彼を見上げると彼は目を見開いている。

私、こんなところで何してるの。
はしたない女だと思われたんじゃ……。

「ご、ごめんなさい」

『嫌わないで』と心の中で呟いた声が聞こえたかのように、「君はいつも俺を驚かせるね 、いい意味で」と呟いて彼の唇が私に重なった。
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