イクメンな彼氏

警備員に誘導されてゆっくりと車が滑り込んでいくのは、見慣れた景色の中の全く縁のなかった場所。

私のマンションから歩いて１０分ほど、駅の目の前にそびえ立つタワーマンションの駐車場だ。

「中津さんの家って、ここなんですか？」
驚いて尋ねると、涼しい顔をしてハンドルを握っている中津さんが「そうだよ」と答えた。

こんな所に住んでるなんて、中津さんの家ってお金持ち……？

私は落ち着かなくて、気後れした気持ちになる。

毎日悠理花ちゃんと一緒にカフェに通えるぐらいだもの、お母さんと悠理花ちゃんと一緒に住んでるんだよね。

今日泊まって本当に大丈夫なのかな……。

あまりの緊張に声が震えた。
「今日、お母さんと悠理花ちゃんはいないんですか？
私やっぱり帰った方が……」

私の質問は車を停めてドアから降りる中津さんと重なって、彼の耳には届かなかったみたい。

「おいで」と助手席のドアが開いて、手が伸びてきた。