恋愛温度差
「違うんですか?」
「まあ、そうなんだけどね。要は『課題クリアの食事』ではなくて『デート』であってほしいんだよな。あいつ、自己主張がないから。伸びしろを作ってほしいんだよ」

 のびしろ???

「真面目で、決まったルールにそってならあいつはしっかり動ける人間。勉強熱心で、俺の作ったものを研究する努力は人一倍ある……が、それ以外のことに無頓着だろ?」
「そうですねえ」

 たしかに。
 黒崎さんのケーキを勉強するために、食事までケーキにしちゃうような人だ。
 課題クリアのための食事会だって、素直に吐いて、付き合ってほしいとまで言ってきた。

 根は真面目すぎるくらい真面目なのだろう。それはわかる。

「あいつには、『この人にはこのケーキを作りたい』と思うような感覚を養ってほしい。俺のケーキをそのまま作り続けるのではなくて。己の思うケーキを作り出せる力をもってもていたいんだ」
「そのために『デート』が必要だと?」
「まずは知らない人間を知ろうと思う気持ちを持ってもうらおうと思って、異性に声をかけて、行ったことのない店に誘えと課題をだしたんだ。そしたら、知り合った女性の好みを考えて、店選びをするだろ?……と思ったんだが」
「私を誘いましたね」とわたしは苦笑した。

 まったく知らない女性ではなくて、微妙に知っている女性を誘って、店からたいして離れていない居酒屋で鍋をつついただけ。

 しかもお互いに、課題のためのクリアだとわかってて、とりあえず食した、みたいな。

「すごく楽しくて、また会う約束をしたんです!てきな報告なら、俺も追試を言い渡さなかったんだけどな」と黒崎さんが苦笑する。

「楽しいとはほど遠い食事会でした」
「だろうな。だからまた、デートに誘えと言った」
「『デート』!?」
「旺志は『食事会』と言い張り、あかりちゃんを誘うのにためらわなかったんだ。普通なら、ためらうだろ? 昨日、相手につまらない思いをさせてしまったかもしれない、と思っていれば。次はないかも……とか」
「ですねえ」
「だけどあいつは、ためらいもせずにあかりちゃんを誘えると言い張った」

 まあ、現実に誘ってきたし。
 今夜もこれから『食事会』だもんね。

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