恋愛温度差
 わたしは黒崎さんに、ずっと『オンナ』として見られてなかったんだ。
『親友の妹』だから、ただ優しかっただけ……。

「姫宮さん?」と呼ばれる声に、ハッとした。
 苦しい想いに呼応して、勝手に流れ落ちた涙に頬が濡れていたと気づいた。

 慌てて手で濡れた頬を拭い去ると、笑顔を張り付けた。

「あれ??? なんだろうねぇ~。どうしたのかな」

 わたしは乾いた笑い声をたてて、体の向きを変えて、君野くんの視線から表情がわからないようにした。

 涙、止まってよ。今はまだ泣いちゃダメなんだから。
 今夜一人になってから。
 君野くんの課題を終えてからじゃないと。

 君野くんがあごに手を置いて、視線をかるくあげる。唇をキュッと強く閉めてから、あごに置いていた手を、わたしに向けた。

「姫宮さんのおかしな格好と関係ありますか?」
「おかっ……!? ちょ、失礼じゃない!!黒崎さんに言われたとおりに、ワンピースとカーディガンを着てきただけなのにっ」
「やっぱり、オーナーの入れ知恵ですよね、その格好は」
「はあ?」
「要するにオーナーに『オトコ』の落とし方を伝授されて、今までの自分とオーナーの理想とする女像が違いすぎて……の、涙ですか」

 君野くんが、こくんと頷いて勝手に納得したようだ。
 ほぼほぼ間違ってない考察に、心にナイフがズブリと突き刺さる。

「直球すぎて、腹が立つ」とわたしが、ぼそっと呟くと、君野くんがぷっと噴き出した。

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