恋愛温度差
―旺志side-
「どうだった、昨日は?」
 黒崎オーナーが、俺の肩に腕をのせて聞いてきた。

 俺は掃除の手を止めると、顔をあげてまっすぐと前を見つめる。

『すべてを奪うと言い、抱きました』と伝えたら、俺の真横に立っているこの人は、どんな衝撃を受けるだろうか。

 あかりの気持ちをとっくの昔から知っていて、あえて何も行動を起こさない女好きなオーナー。
 スイーツを作り出す技術は尊敬し、師匠としてついていくつもりだ。
 でも女の扱いには賛同しかねる部分が多すぎる。

 モテるがゆえの、オトコの衝動というべきか。金もあり、地位もあり、顔も良いからモテるのはわかる。
 けど、純粋に好いている女性にたいして、残酷だよ。
 気持ちをわかっているのに、答えを出さずに、適度にやさしくするなんて。

「昨日は食事をして、俺のアパートに行きました」
「えっ?」

 『うそだろ?』と言わんばかりの反応に、俺の口元が緩みそうになる。

「ヒールが足にあってなかったみたいで、歩き方がおかしかったので、休んでもらいました。歩けるようになってから、サンダルを貸しました」
「お、そっか。そうだよな。で? 次の約束とかしたのか?」

 ……次の約束してよかったんですか?
 オーナー的に。いや。一人の男として。それで、俺に合格点を笑顔で、言い渡せるんですか?
 俺は本気ですから。
 あかりを奪います。

「約束はしてません」
「はあ~」

 オーナーが深くため息をつきながらも、どこかうれしそうな表情になった。

「だからな、旺志……」
「連絡先の交換はしました。近々、また夕食に誘う予定です」
「お、おお~。その予定が、決行できたら合格だな」

 黒崎オーナーが俺の肩をポンポンと二回たたくと、俺から離れていった。
 次の従業員を見つけて、肩に手を置くと、「課題はどうなってる?」と声をかけていた。

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