恋愛温度差
 わたしは痛くて足を引きずりたくなる気持ちに鞭うって、普通を装って足を踏み出す。
 いつも通りに右足を出し、左足を出す。痛そうなんて思わせないんだから。

 わたしが売り場から出てくると、スッと君野くんが隣に並んで、腰を掴んできた。

「ちょ……!?」
「あかり、靴、脱いで」
「はあ!?」
「脱いで」

 君野くんが小さい声で、やさしく諭すように言ってくる。

「脱がない。痛くないし。大丈夫」
「足首のところチマメになってる。痛くないはずない。痛いよね? 無理しなくていいから。脱いで。はやく」

 君野くんが、さっき買ってきたと思われる紙袋に手を入れて、何かを取り出した。

「その靴も、茂美さんのでしょ? あかりの足に合ってないから。痛いんだよ」
「足のサイズ一緒だし」
「それは長さだけでしょ。横幅、甲の高さは一緒じゃないよ。だから、これ、履いて」

 君野くんが紙袋から、赤の可愛い靴をわたしの前に置いてくれた。
 ヒールはあるが、そんな高くない。3センチくらいだと思う。

「ヒールにこだわってるみたいだったから、少し高さのあるのにしたけど、これならチマメができるほど、痛くないはずだよ」
「あ……ハイ」とわたしは、勧められるがまま、靴を履き替えた。

 靴はスッと吸い込まれるように、足に密着した。

……でも。

「痛いんですけど」
「すでにチマメになってるからね。そこはバンドエイドを貼って保護しないと、痛みは消えないよ」と、小さい箱を私に差し出してくれる。

 コンビニのテープが貼ってあるバンドエイドだ。

「お心遣いありがとう……ございます」とわたしは受け取りながら、ぺこりと頭をさげた。

「どういたしまして」
 君野くんが脱いだ靴を、赤い靴が入っていた紙袋の中にしまうと、視線を茂美さんへと移動した。

 茂美さんは、ケーキのお皿をテーブルに置き、不思議そうな顔でこっちを見ていた。

「これ、茂美さんの靴……ですよね。お返しします」と、君野くんがヒールを入れた袋を茂美さんに差し出した。

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