恋愛温度差
「ごめんね。あかりちゃん、光が怒ってただろ?」

 黒崎さんが私たちの前に立つと、両手を合わせて謝った。

「いえ。ご飯は噴きだしてましたけど、怒ってはないです」

 オトコいない歴32年を哀れに思いつつ、お兄ちゃんは見下している部分があるし。

 32年も生きているのに、付き合ったことがないのは、私の性格に問題があるせいだって思ってるみたいだし。

 もしかしたら怒るよりも、君野くんに対して申し訳ない気持ちを抱いているかもしれない。

 こんな妹と夕食を共にしないといけないなんて、悪い……とか。絶対に思ってる。

 ブルブルっと私は身震いをすると、ズズッと鼻をすすった。

「あかりちゃん、寒いの?」と黒崎さんがスッと私の頬に手をあてた。

「あ、大丈夫です」

 私は首を振る。

 寒いけど、寒いなんて言えない。

「すごい冷たいじゃない。今夜は冷えるから、店で待ってて良かったのに」

「いえいえ、それは」

 他のお客様の邪魔になるから、出来るわけない。

 黒崎さんのお店の邪魔なんてできない。

 黒崎さんが厚手のコートを脱ぐと、私の肩にかけてくれ、両腕を擦ってくれた。

「風邪ひかないようにね。これで少しはあたたかいと思うから」

「あ、でも黒崎さんのが……」

「俺は平気。車で帰るだけだし。じゃ、光経由で返してもらえればいいから」

 黒崎さんが片手をあげて、私たちから離れていく。

 近くに契約している駐車場にある車へと向かったのだろう。

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