絶望の部屋(再)
「眠いね。」
 
「お前ほんとそれしか言わねぇな。」
 
 
「でもさ人間が寝るのは動物として当然のことなんだよ!
 
 
だから一也みたいに頑張れる奴もいれば僕みたいに頑張れない奴もやっぱり存在すると思うだよね。」
 
 
「はいはい。もうわかったから大人しく待ってろよ」
 
 
 
それから30分ほど待っている間僕はひたすら一也向かって寝ることの偉大さを教えてあげた。
 
 
この会話はいつものことだから最早一也も聞いてるようで聞いてない状態でウンウンとただただ頷くだけだった。
 
 
 
でも僕は間違ってないはずだ。
動物的本能に逆らって眠たいのに起こされる。これは大きな間違いでしかない。
寝れる時に寝ておかないともしもの時誰かに襲われて何日も寝れないとどうする?
ここでしっかり寝ていたやつと寝ていないやつで大きな差が出来てしまう。
だから睡眠は大事なんだよとか思っていると何分ぐらい寝たかわからないが立ったまま寝てしまっていた。
 
 
「勇哉…今立ったまま寝てただろ?」
 
 
「えっ、気のせいじゃないかな。
 
 
さすがに僕でも昨日しっかり寝たのに立ったまま寝るなんてありえないよ」
 
 
 
「そうだよな。俺より早く寝ておいてなんでそんな眠そうなのか俺には全くわからねぇけどな…」
 
 
「…」
 
 
 
「おい勇哉。寝てるぞ。」
 
 
はっ。しまった。
 
 
話を聞いてるつもりがいつの間にかウトウトしてたみたいだ。
 
 
「フリだよフリ。寝てるフリしてたんだよ!」
 
 
「ふーん。それがフリか…」
 
 
半目の僕をみて一也はやれやれと言った顔でこっちを見ていた。
 
 
そんな一也を気にすることもなく睡魔は尚も襲い続けて残りの待ち時間をほとんど夢の中で過ごした。
 
 
 
そして待ち合わせの5分前になるとようやく扉が開く音がなった。
 
 
 
「あれ?2人とももう来てたの?」
 
 
七海が発した言葉に反応して僕の目も覚めた。
 
 
「今さっき来たとこだよ!」
 
 
一也はそう答えたが1時間近くも待ったのに今来たって…
嘘じゃないか。
 
 
僕が本当のことを言ってやろうと思って前に出ようとすると一也は足を踏んで下がってろと言わんばかりの顔でこっちを睨んできた。
 
 
 
ハイハイ下がればいいんだろ下がれば。
 
 
後ろに下がって2人をよく見ると2人も昨日あれから服を買ってきたのか気合いの入った格好で違う人かと見違えるぐらい綺麗だった。
 
 
「あの…新庄君。似合ってるかな?」
 
 
一也と七海が話している間少し離れていた栞の方から僕に話しかけてくれた。
 
 
「似合ってる!凄い似合ってるよ!
 
 
昨日までの印象と全然違うからちょっと驚いちゃったよ!」
 
 
 
「えへへ。ありがと。
 
 
新庄君もなんか昨日と印象違ってカッコいいよ!」
 
 
 
ぐさっと何が刺さったかのように胸が苦しくなった。
テンパりすぎて何が何かわからないが褒められたみたいだ。
 
 
いやいや、僕なんかより君の方が全然可愛いよとか言ってみたいけどビビリの僕にそんなこと…
 
 
調子乗りすぎて嫌われたどうしようとか、ちょっと褒めたからっていい気になってる野郎とか思われそうだし…
 
 
「え、あ。どうも。」
 
 
どうもじゃねぇよ。
 
 
情けない自分を殴りたい。
せっかくのチャンスをみすみす流すようにしてしまった。
 
 
それから顔を赤らめたまま栞は何も話さなくなってしまった。
 
 
いやむしろこれぐらいがちょうどいい。
僕に一也みたいな真似事はできないよ。
 
 
「おーい。2人して見つめ合ってないで行くぞー!」
 
 
ようやく話終わったのか一也は遊園地の方に向かって歩いていっていた。
 
 
そして見つめ合ってないでと言う言葉に反応した僕と栞は同時に『見つめ合ってない』と言って後ろから2人についていった。
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