絶望の部屋(再)
「ゲホッ。」
 
 
血を吐き苦しそうにしだした真理亜を見てもう無理だと言うことはわかった。
 
 
「大丈夫?」
 
 
大丈夫?なんて大丈夫じゃない人に向かって言う言葉ではないのはわかっているがそれ以外の言葉は出てこなかった。
 
背中をさすった手が血まみれになるほどの出血でいつ死んでもおかしくない状態だ。
 
 
「新庄勇哉…。
 
 
あなたはもう行って。」
 
 
「そんなこと出来ないよ。僕は守ってもらったのに君のことを見捨てるなんて。」
 
 
 
「行って。私は人に死んでる姿なんて見られたくないの。
 
だからお願い。」
 
 
「…。
 
 
わかったよ。」
 
 
 
「あの…最後にお願いしてもいい?」
 
 
「え?なに?なんでも言ってよ。」
 
 
「私のこと抱きしめくれない?
あなたに彼女がいるのはわかってる…
でも私の今までの想いを無駄にしたくないの…。」
 
 
一瞬ためらったがそんなこともしないわけにはいかない。僕は真理亜に命を助けてもらってるんだから…
 
 
ごめん栞。今は許してくれ。
 
 
「ありがとう新庄君。」
 
始めて彼女の笑顔を見た。
笑っている顔は一瞬僕をどきっとさせた。
全てから解放された彼女のこの笑顔は一生忘れないだろう…
 
 
「新庄君。
 
 
あなたはあなたの思うようにすればいいのよ。あの過去の事件はあなたのせいじゃないの。だから強く生きて私の分まで…
 
 
そしてあの頃のような姿でまた会お。その時は私も友達に慣れたら嬉しいな…
今まで酷いこと言ってごめんなさい。あなたのことが大好きでした。」
 
 
 
僕はその言葉に対し振り返ることができなかった。
彼女に泣いてる情けない自分を見せて不安にさせるわけにはいかなかったからだ。
 
 
僕は振り返えらず返事をした。
 
 
「ありがとう真理亜。
 
さっきはちょっとドキッとしちゃったよ。じゃあまた地上で会おうね。」
 
 
「!!
 
そんなこと言われたら未練ができちゃうじゃない。でもありがとね勇哉…」
 
 
僕は真理亜が使っていた刀を持ってその場から立ち去った。
 
 
ありがとう真理亜。わかったよ僕。
もう悩まない僕は自分の力を自分が思うように守りたい人を守るよ。
 
 
だから……。
 
 
もう会えない。
 
 
死んでしまったらそこで終わりなんだよ…
目の前にいた人が死ぬ。
もうこんな想いをするのは嫌だ。
 
 
僕は命にかえても栞や一也達を守るよ。
 
だからもう情けない姿なんか見せないから安心して寝ていいよ真理亜。
 
 
 
こうして絶望の部屋での最初のゲーム、陣取りゲームは終わった。
 
 
たくさんのことを学び、たくさんのものを失った。
 
でもまだまだゲームは始まったばかりだ。
いつかこの手でゼツボウを殺す日までは僕は絶対に死なない。
 
 
その時は胸を張って家族みんなそして真理亜の墓を作って花を添えるよ。僕は強くなったって。
 
 
だからその時までもうしばらくさみしい思いさせるかもだけど待てて。
 
 
今まで最低な息子でごめん。今まで最低な兄貴でごめん。もう逃げない、もう人生から目を背けないだから僕を家族ってまだ思ってくれますか?
 
 
ううん。思ってくれてるよね。
そんな風にしか思えなかったのは僕が逃げていたからだ。
父さん達は僕を恨んでなんかあるはずがないのに…
 
 
本当にごめん。
そして育ててくれてありがとう。
 
 
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