絶望の部屋(再)
「くるな勇哉。お前まで死んじまったら誰があの2人のこと守れるんだよ。」
 
 
「まだ…まだ一也だって死んでないよ。こんなとこで死なないって約束したじゃないか。
 
お願いだよ。ゆうこと聞いてくれよ…」
 
 
足がゆうことをきかないのはパニックなどではない。そんなことはわかっていた。
 
 
さっきから一也のことで夢中で痛みも忘れていたが一也が刺されたと同時に力が抜けたのか一気に痛みが出て来ていたからだ。
傷は広がりとてももう今は歩ける状態じゃなかった。
 
 
「気持ちだけで十分だよ勇哉。お前がどんなに足が痛いか俺は知ってるからこいつの足止めは俺が引き受けたんだ。
 
 
今のお前じゃもう足手まといだろ?」
 
 
「そんなこと…そんなことないよ。
 
 
僕なら大丈夫だよ。こんな痛みなんか…」
 
 
 
「カッコつけたくせに情けない最後だったな。
 
でもこいつは俺が仕留めてやるよ。」
 
 
そう言って一也はポケットの中を探り始めて何かを出した。
 
 
 
それを見た鬼も僕も体が膠着した。
 
 
「やっと捕まえたぜくそ黒鬼。」
 
 
一也はポケットから出した手榴弾の線を抜き鬼の口の中に放り込んだ。
 
 
次の瞬間鬼は粉々に吹き飛び一也もその爆風で飛ばされて来た。
 
 
「一也!!
 
 
大丈夫?今、今助けてあげるから待ってて。」
 
 
 
僕は自分の服を破り血を必死に止めようとした。
 
 
だけど黒鬼の鋭い爪が何本も貫通した傷から血が止まることはなかった。
 
 
「あれ。なんで…なんで止まんないんだよ…。
 
 
頼む止まってくれよ。頼む。」
 
 
傷口に必死に押し当て祈るように同じことを何度もいったが全く血が止まることはなかった。
 
 
「もういいよ勇哉…。
 
お前がビビってた黒鬼を仕留めてやったんだぜもっと喜んでくれよ。いつもみたいにさ…」
 
 
「嬉しいわけないだろ。
 
お前今死にかけてるんだぞなんでなんでこんなことしたんだよ。」
 
 
 
「お礼だよ。でもお前が嬉しくないんならやっぱり俺はお前にはなれなかったみたいだな…。」
 
 
「え?どうゆうこと?」
 
 
「お前は忘れてるかもしれないけど俺が転校してままならない頃、当時俺は暴力だけで全てを解決しようとしていた。
 
 
そんなある日少し前に喧嘩で勝った高校生達が仲間をよんで俺はそいつらにやられた。そんな時怪我した俺に声をかけてきたのがお前だった。
誰も近づいて来なかったのにお前だけは怪我した俺を心配して声をかけてくれた。その時始めてそんな風に接してくれる奴に出会って嬉しかった…だからお前に怪我した理由を話すとお前はさ血相変えて飛び出していたよな。
 
それでお前は俺がボコボコにされた高校生達のところに行って俺の代わりにやつけてくれるのかと思ってた…だけどお前はひたすら無抵抗のまま殴られてなにもしなかったんだよな。俺はそれを見てなぜか助けに入ってしまった。何やってんだこいつとか思いながらさ夢中になってお前を助けようとしていた。
気づいた時にはみんな倒れていた。
そんな時お前が俺に笑顔で言ってくれたんだよ…「人を傷つけるために力を使うなんてこいつらと一緒だよ。
だから一也君は今みたいに人を守る為に力を使えばいいんじゃないかな?」
ってゆうお前の余計なお世話に心をうたれたんだよ。
 
 
友達でもない今日初めて話したやつにそれを伝える為に高校生に殴られてまでしてくれたお前が俺は好きになった。
その時俺はお前の前でいちどだけ泣いたんだよな…。
いじめやチンピラを束ねることしか出来なかったどうしようもない俺に光がさしたように見えてさ嬉しかったんだよ。
だからいつかお前に恩返しできる日が来るのをずっと待っていた。
そしてやっと今果たせた気がするな…

 
 
 
「一也…お願いだよ死なないでくれよ。
 
一也が居なくなったら僕もう1人じゃないか…」
 
 
「1人じゃねぇよ。俺はいつでも一緒にいるよ。
 
俺の憧れなんだから最後ぐらいシャキッとしてる昔のような姿で笑顔で見送ってくれよ。」
 
 
「一也…。ごめんそうだね。
 
 
今まで本当にありがとう。楽しかったよ」
 
 
「こっちこそ。お前といた6年間俺は一生忘れないぜ。ありがとな勇哉。
 
 
俺のこと忘れないでくれよ。いつまでも親友でいさせてくれよ。」
 
 
「当たり前だろ。
 
 
お前こそ最後にそんな情けない顔で泣くなよかっこ悪いじゃないか…」
 
 
「はは。なんでだろなんで涙が止まらねぇんだろ。もう満足したと思ったのに…
 
 
なんで俺はお前と別れるのが嫌になっちまってんだろ…」
 
 
「これは別れじゃないよ。いつかまた会えるよう必ず…」
 
 
「そうだな。
 
 
あっこれお前が持っといてくれよ。後七海にすまないって伝えといてくれ。」
 
 
そう言って渡されたのは希のシュシュだった。
ここに来る前に誓った3人の約束は果たされないと思ったと同時に一也ともう2度と会えないことが一気に押し寄せ今まで我慢していた涙が一気に溢れ出してきた。
 
 
「わ、わかったよ。僕がしっかり伝えておくね…。だから一也はもうゆっくり休んで。」
 
 
 
「そうだな。じゃあおやすみ勇哉。また明日な。」
 
 
「また明日…な。」
 
 
そう言って目を閉じた一也は冷たくなっていき目を覚ますことはなかった。
 
 
今までほんとにありがとう一也。
僕のほんとの親友…
さようなら
 
 
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