あのね、先生。
茉央ちゃんはふと思い出したように俯いて、小さな声で言った。
「…ねぇ先生、もしかしてシロに呼ばれて来たの?」
「来てって言われてたけど、ほんとは断ろうと思ってたんだ」
こうなることがどこかで分かっていたから。断るべきだと思ったんだ。
「…それって、あたしがいるから…?」
部屋の前まで来て鍵を開ける。
いつもと同じ光景なのに、茉央ちゃんが一緒ってだけで別の場所みたいだった。
「入って、風邪引くから」
茉央ちゃんがいるから、っていうのも間違いじゃないけど、そんな言い方すると茉央ちゃんが悪いみたいだ。
そうじゃない。
俺には茉央ちゃんと会う資格なんてないと思ったから、行かないでおこうと思ったんだよ。
会いたくなかったわけじゃない。