あのね、先生。
ノックもせずにそれを開けるけど、思っていた通りその奥にいるらしい。
少しだけ聞こえる物音に、何故か心臓がドクドクと波打った。
…渡すかよ。
俺が大事にしてきたんだ。あんたが傍にいないとき、俺が傍にいたんだ。
…今さら、ふざけんな。
―ガチャ…
ノックをせずに開いた美術準備室のドア。
蒸し暑いのにクーラーなんてついてなくて、窓から入る風が頬を撫でた。
…やっぱりそこに、蓮くんはいた。
「…思ったより早かったね」
俺が来たことに驚く素振りを見せないから、やっぱり来るって分かってたんだ。
「んふふ、むかつく」
あのときと同じように笑うくせに、蓮くんの口調には確かに俺に対する敵意が含まれていた。