あのね、先生。

ノックもせずにそれを開けるけど、思っていた通りその奥にいるらしい。

少しだけ聞こえる物音に、何故か心臓がドクドクと波打った。


…渡すかよ。

俺が大事にしてきたんだ。あんたが傍にいないとき、俺が傍にいたんだ。

…今さら、ふざけんな。


―ガチャ…

ノックをせずに開いた美術準備室のドア。

蒸し暑いのにクーラーなんてついてなくて、窓から入る風が頬を撫でた。

…やっぱりそこに、蓮くんはいた。


「…思ったより早かったね」

俺が来たことに驚く素振りを見せないから、やっぱり来るって分かってたんだ。

「んふふ、むかつく」

あのときと同じように笑うくせに、蓮くんの口調には確かに俺に対する敵意が含まれていた。
< 157 / 328 >

この作品をシェア

pagetop