あのね、先生。

「私、見たんです」

「…何を、ですか?」

わざわざ美術準備室まで来た吉野先生は、俺を問い詰めるように言う。

「この前篠原先生が卒業生と手をつないで歩いてるところを」

…ついてない。

これが他の先生だったら、見て見ぬ振りをしてくれたかもしれない。

そんなの今さら職員会議にかけたところで、面倒くさいことになるだけだから。


「あれって確か…体育祭で熱中症になって篠原先生が運んだ子ですよね」

でも吉野先生は違う。

それを見て見ぬ振りなんてしない。

「…噂になってたのも、あの子とのことだったんですね」

それは正義感が強いとか、そういう話じゃなくて。男の俺にも何となく分かる女の人の怖いとこ。


「…何のことですか?」
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