あのね、先生。

「その一度をたまたま見られるって、運悪いっつーか…そんな出来すぎた話ありますかねー」

何か悪いことを思いついたような顔で笑って、ほんとにたまたまですかね、なんて俺を見て言う。

「…もしも偶然じゃなかったとしても、見られて相手が茉央ちゃんだってバレたことに変わりないですからね」

「咲良ってこともバレてるんですか」

「はい。体育祭で倒れたでしょ、茉央ちゃん。それで覚えてたみたいで」


多分偶然じゃないけど、この際それはどうだっていいこと。

あの日茉央ちゃんを待たせてたのに少し遅れたのは、吉野先生に引き止められてたからだった。

強引に話を終わらせて帰った俺に、吉野先生は少し怒ってた。

…吉野先生がその後どうしたかなんて俺は知らないけど、それを確かめる方法なんて本人に聞くしかないし。
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