あのね、先生。
「じゃあ、俺まだ仕事あるんで」
「あ、はい」
保健室のドアに手をかけて、廊下に出ようとした時、「中村先生」と呼び止められて咄嗟に振り向く。
聞こえないふりしてもよかったけど。
だって俺、どっちかといえばこの人苦手な分類の方だから。
「あの、ありがとうございました」
「…何が?」
「貴方のおかげで、私まだ引き返せそうだから」
何だ、ほんとに普通のいい人じゃん。
ただ、周りが見えてなかっただけで。
「あー、いえ。俺は別に…」
「優しいですよね、先生」
俺が?
「急いでるのに、私の話聞いてくれて。ほんとは私のこと苦手なのに」
また、クスリと笑った。
だから何か悔しくて、その言葉に返事をせずに保健室を出た。