あのね、先生。
振り返るつもりなんてなかった。
今日はこのまま帰ってしまおうと思った。
手を振り払った時の茉央の悲しそうな表情なんて、忘れてしまおうと思った。
だけど…
―キィィィ!!
歩き出してすぐに耳障りなブレーキの音が聞こえてきて、そのあとすぐに鈍い音がする。
慌てて振り返ると、そこには倒れた自転車とそれに乗っていたであろう女子高生がいて。
…そのそばに倒れた茉央の姿があった。
「茉央!!」
すぐに駆け寄ると、女子高生は泣き出しそうな顔で謝ってくる。
倒れた茉央を抱えて上半身を起こすと、少し見えた赤黒いもの。
それは茉央の頬を伝ってドロリと地面に落ちた。
「茉央っ」
「…ん…大丈夫、だから…」
顔を歪めて目を開けた茉央は、女子高生を見て申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんね、あたしがよそ見してたから…」
「ごめんなさい…っ」