あのね、先生。
…俺がそばにいて、何でこんな怪我させてんだよ。
あのとき手を振り払わなければ、こんなことにはならなかったかもしれないのに。
俺、最低だ。
こんなに近くにいて、手の届く距離にいたのに。守ってやれなかった。
「優真、あのね…」
「今は言うな。」
「え?」
「聞きたくない」
ごめんな、茉央。
頼むから、今だけは言わないで。
まだ俺が彼氏だから。傍にいてほしいのが俺じゃなくても、彼氏ならその権利くらいあるだろ?
茉央の鞄からハンカチを出して傷口を抑えると、少し顔を歪めた。
「これで押さえてて」
思ったよりも深い傷なのかもしれない。
白かったハンカチは病院に着く頃には赤く染まっていた。