あのね、先生。
「旦那に貰ったの、結婚記念日だからって。キザなことするわよね」
そう言った先生は花を見つめて顔を綻ばせて、大事そうにそれに触れた。
「あ、もしかして彼氏から貰ったの?」
「え?」
「さっき、前に貰ったことがあるって言ったでしょ?」
高校の卒業式の日、確かにそれはあたしの手の中にあった。
【卒業おめでとう】
そう書かれたメッセージカードと一緒に。
「…彼氏じゃないです」
「あら、そうなの?」
「はい。でも、何で彼氏に貰ったって思ったんですか?」
一瞬ドキッとしたのは、その花をくれたのが彼だったから。
名前も知らないけど、見ればすぐに分かるくらいになってしまった。
だってこの花はあれからあたしの目に、頭に焼き付いて離れないから。