あのね、先生。

言いに来たことがあるのに。

美術準備室のドアを開けて、もう出て行くって時だった。

やっぱり言わずに帰るのは、男として終わってんな。なんて、苦笑いで。

「蓮くん」

最後だし。

「ん、何?」

多分、茉央のことがなかったらさ、俺卒業してからももっと頻繁にここに遊びに来てたと思うんだよ。


「俺、茉央と別れたよ」


だからこれからはさ、元生徒と元副担任として、仲良くしていけばいいじゃん。

それが俺にとっても、茉央や蓮くんにとっても、一番いいことなんじゃねぇの。


「加地くんってさ、いい人だよね」

「…何だよいきなり」

「わざわざそれ伝えてくれるなんてさ、やっぱいい人だよ」

自覚がないならいいけど、俺はさ、あんたの方がよっぽどいい人だと思うけど。

「ありがと、加地くん」

…ほら、変な人だ。
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