あのね、先生。

加地くんが指差す先を見ると、確かに20時閉館と書いてある。慌てて時計で時間を確認すると、20時ジャスト。

「…もう閉まってるんじゃないの?」

シロ、20時にここ集合って言ったのに。

「いや、開いてる」

加地くんがドアを引くと、確かにそれは開いた。けど、思ったとおり人の気配は全くない。


「もう閉館してるよ」

「でも開いてるし。」

「そういう問題なの?」

「出ろって言われたら出ればいいだろ。この個展今日までなんだから仕方ねぇ。」

あんまり気にする様子もなく、中へ入って行く加地くん。絶対閉まってるって。

ほんとに人がいなくて、シーンと静まり返ったその場所は、きっと昼間だったら人で賑わってたんだろうな。


「なぁ、咲良」

「なに?」

壁に掛けてある絵を一枚一枚見ながら歩く。加地くんも同じように絵を見ながらあたしに話しかけてきた。


「俺この前蓮くんに会ってきたよ」

「えっ!」

思わぬ言葉に立ち止まって絵から目を離して加地くんを見るけど、加地くんは気にする様子もなく歩き続ける。
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