あのね、先生。

「うん…、ありがと、加地くん」

「俺はムカつくから言わねーの。」

「んふふ、うん、分かってる」

素直じゃないなぁ。

素直じゃないくせに、どこまでも優しいんだ、彼は。


少し通路みたいなところを歩くと、今度は少し小さなホールみたいなところに出た。

たくさん絵が飾ってある中に、ポツンと布がかけられた絵があるのが見える。


「俺トイレ行ってくる。待たなくていいから、先進んでて。」

「あ、うん」

トイレに行く、なんて言って加地くんは携帯を耳に当ててどこかに電話しながら歩いて行った。

用事があったのかな、なんて思いながらも1人で先に進み始めたけど、気になるのは一番最初に目に入った布がかかったあの絵。

見えないから余計にどんな絵なのか気になるし、1つだけ不自然に真ん中に置いてある。

これはもう…、見ろってことだよね?


「布とっていいのかな…」

加地くんがいたらきっと何の迷いもなくとっちゃうんだろうけど、もし触っちゃいけないものだったら、なんて考えると簡単にとることは出来ない。
< 307 / 328 >

この作品をシェア

pagetop