あのね、先生。

周りの絵を見てるけど、やっぱり気になるのはど真ん中の絵。

加地くんが戻ってきてから一緒に見ようかな、なんて思って待ってたけど、加地くんが帰ってくる気配はない。

何してるんだろう、なんて思ったけどさっきの様子からするときっと誰かに電話してるんだろう。

すぐには戻ってこないから先に進んでてって言ったんだと思う。


だけど、これを見ずに先に進むなんてことは出来なかった。何でか分からないけど、見なきゃって気持ちになる。

だから、迷いながらも布に手を掛けた。

どうせ誰もいないんだし、見ても怒られたりしないよね。

そう割り切って、そろそろと布をどけた。


「え……」


最初に見えたのは綺麗なピンクの桜の木。

次に見えたのは、2人の人。

でもあたしが驚いたのは桜の木が見えたからでも、人が見えたからでもなく、その絵に見覚えがあったから。

完成を見ることがなかった絵。
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