あのね、先生。
「何か、今日はあたしばっかり嬉しいね」
「今日は茉央ちゃんが卒業する日なんだから、それでいいんだよ。あ、でも俺も嬉しいよ。会えたから」
「そっか、よかった」
手をキュッと繋ぎ直した先生は「行こっか」と言ってあたしの手をしっかり引く。
「一つだけ、言ってもいい?」
「うん、何?」
「そろそろ先生って呼ぶのやめない?」
「それって…」
つまり、名前で呼んでってこと。
先生が高校に来て、それからずっと″先生″って呼んでたからそれが定着してた。
そっか。だって先生はもうとっくにあたしの先生じゃなくなってるんだもんね。
「俺の名前知ってるよね?」
「さすがに知ってるよっ」
先生が少し不安気な顔で聞いてきたから、慌てて言ったけど、すぐに後悔した。