あのね、先生。

あのときあたしが自分で決めたこと。

彼の姿を見てもこうして追いかけることは絶対に許されない。

…そう、自分に言い聞かせて。


一歩踏み出した時だった。

「わっ…!」

手首をキュッと引かれて、重心が後ろに持っていかれる。グラついた。

人気がないこの場所で、知らない誰かに手を引かれたと認識して体が強張った。


転けてしまう、と衝撃に身構えたけど、痛みはなかった。ポスンと誰かの胸に後ろ向きにダイブする。

咄嗟にギュッと目を瞑った。

優しく手首を掴む手。

あたしは何故かそれを知ってる気がした。


「…誰、探してるの?」


後ろから聞こえた優しい声に、我慢してたみたいに涙がポタポタと落ちた。
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