だから、好きだって言ってんだよ
いざ足を踏み入れようとしたところで、後ろからまたしてもイジワルな声が聞こえた。
よーく聞き覚えのある声に、うんざりした気持ちが込み上げて来る。
……またか。
「うるさいなー、緊張してるんだよ!」
振り返り様にわざとらしく頬を膨らませた。
陽平はあたしを見下ろしながら、邪魔だとでも言いたそうな顔を浮かべている。
ブレザーのボタンが全開で、そこから覗くゆるゆるに締められたネクタイと、腰の位置よりも少し下ではいたズボン。
ダラシなく見えないのは、スタイルが良いせいかな?
それとも、よく似合ってるから?
なんにせよ、そんな陽平が気に入らない。
小学生の時はあたしの方が大きかったのに、いつからかな。
見上げなきゃ、顔が見えなくなったのは。
図体だけ大きくなっちゃって。
ミーコには普通なのに、どうしてあたしにだけこんな態度なわけ?
って、今に始まったことじゃないから別にいいけど。
「へー、愛梨でも緊張とかするんだ?肝だけは座ってると思ってたのに」
「どういう意味よ!」
シレッとそう言ってあたしの横を通り過ぎようとする陽平を軽く睨む。
「べっつに~?」
バカにしているようなその言い方に、ため息しか出ない。
陽平といると、ムダにエネルギーを使うから疲れるんだよね。