だから、好きだって言ってんだよ



膝下丈の黒の靴下と、こげ茶色のピカピカのローファー。


サッと足を通して、リビングの方にくるっと振り返った。



「行ってきまーす!!」



「朝ご飯は?」



慌てるあたしに呑気なお母さんの声が届く。


遅刻するかもって言ってるのに~!



「時間がないからいらない!」



「そう。お父さんとお母さんも、式に間に合うように行くからね」



「え?別にいいのに」



高校生になってまで両親揃って式に参加するとか、なんだか少し恥ずかしい。


でも、言っても聞かないだろうからそれ以上は何も言わなかった。



あたしの声に反応して、お父さんと弟の光太(こうた)がリビングから出て来る。



「おー!よく似合ってるじゃないか、その制服。大きくなったなぁ」



制服姿のあたしを見て、お父さんが感慨深くそうつぶやく。


涙脆いお父さんは、中学の卒業式でもハンカチを目に当ててあたしよりも泣いてたっけ。



「おねーちゃん、可愛い!」



「ありがとう、光太」



今年から中学生になる光太が、目をキラキラさせながらあたしを見ている。



可愛いのは光太の方だよ。


可愛い光太に朝から癒されつつ、遅刻しそうだったので慌てて玄関のドアに手をかけた。



「行ってきまーす!」



そして家族に見送られる中、慌ただしく玄関を飛び出した。



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