三人の私
車上ホームレス
どうしよう...。本当にどうしよう...。


銀行のATMで、私は途方にくれていた。


ATMの画面には、「残高 12000円」と表示されている。

これが私の全財産だ。

少ない...。生活するには...。どうしよう...。

画面を見たまましばらくぼんやりと立ち尽くしていると、後ろで待っていた女性に声をかけられた。「あの...すみません...。終わられました......?」

ハッと我に返って、振り返る。

私と同じくらいの歳だろうか...?30代前半くらいに見えるその女性は、ロングの黒髪ストレートだが、手入れされていて、綺麗に伸びていた。まるでシャンプーのCMに出てくるモデルの髪のよう。メイクも派手すぎず、美人だった。ベビーカーを押している。そこにいる男の子の赤ちゃんは眠っている。ベビーカーを押す女性の左手の薬指には指輪。

可愛い子供、オシャレもできる。旦那さまは優しいんだろうな。きっと。羨ましいな...。なんて、勝手にその女性の幸せそうな家庭を想像してしまった。

私だって、こんな女性になれたかもしれないのに、どうしてこうなってしまったの...?

私は、「あっ。すみません。」とその女性に謝り、「取引終了」ボタンを押し、画面をトップに戻すと、銀行を出て、駐車場にある自分の車に戻る。


ブルーの軽自動車、10年前に買って以来、気に入って乗っている。
ラメが入っていて光が当たるとキラキラするこの明るいブルーのボディーカラーに一目惚れして、この愛車の購入を決めた。

でも、車の明るさに反して、私の心は暗く沈んでいた。

12000円で、どうやって生活できるんだ。ガソリン代、食費、お風呂代、ケータイ代まで...。

もう限界じゃないのか......?



なぜなら、私は今、車で寝泊まりする「車上ホームレス」なのだから............。
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