私に恋をしてください!
では、出版社?
調べると、書店へ直接営業に行く部門に行けるかどうかは狭き門だった。

それなら出版社と書店の間にある、出版取次を営んでいる会社への就職をすれば、営業として書店に出向くことは自然だと考え、大手2社の入社試験を受けたところ、1社から内定が貰えた。

入社前後の研修を受けて配属されたのは、首都圏営業1部1グループ。
一番人口の多い地域で、一番大きな書店チェーンを担当する花形部署。

俺はまだ新入社員だから1人で営業を任されるまでには時間がかかる。
けれども、このグループには彼女が働くわかば堂書店も含まれるんだ。

彼女と関われるチャンスは得た。
あとは、どうやって今の俺をアピールするかだ。

すると、ゴールデンウィークにわかば堂書店本店で児童書のイベントがあり、そのスタッフとして駆り出された。

そこに・・・彼女がいた。

どう、声を掛けよう。

迷う俺に、逆に彼女から声を掛けてくれた。

『もしかして、柳井(ヤナイ)・・・くん?』

社会人としては丸5年のキャリアがある彼女の俺を見る目には、俺にはない余裕があるように思えた。

「久しぶり、神戸(カンベ)」

気のせいだろうか。
余裕の他に、女性として磨かれた、箔がついているようにも感じた。
髪もロングヘアからショートボブになっており、凛としている。
< 3 / 216 >

この作品をシェア

pagetop