私に恋をしてください!
『資格のテキスト本と自己啓発の本ばっかりだね』
「俺ってただでさえ一浪しているから他の人より社会人デビューが遅れているし、早く追い付きたいと思ってさ」
『ふぅん』

葉月はその中の1冊の本を取った。
龍成社から出ている【"気付き"は三文の徳】という本。

この本の著者による講演会に先日"サクラ"を兼ねて行ってきたと葉月は言う。

『何事にも気付くって大事だとは思ったけど、誰しもそんな才能は持ってないと思うの。結局気付かなかったことで損をすることはいっぱいあったのが私の人生でね。だから自分の能力をいかに過信しないで身の丈で仕事が出来るかって考えることにした。気付こうとして日常を過ごしたって、疲れるだけだもん』

身の丈で仕事をするか。
新入社員がそんなことを言っていいのかな。

「俺はまだ、色んなものをがむしゃらに吸収したいから、身の丈なんて考えられないな」

テーブルにお茶を置きながら、俺は葉月に言った。

『ごめんね』
「何が?」

突然謝られたのですぐに疑問をぶつけた俺。

『私の美学を押し付けるようなことを言っちゃったから。生意気だよね』
「葉月の言うことは別に生意気だとは思わないよ」
『でも、ソラが私と関わってくれるのは、これのせいでしょ?』

と、右腕の火傷した部分を俺に見せた。
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