私に恋をしてください!
すると葉月はハサミで背中の縫い目を切り始め、開いた穴から中の綿を全部抜いてゴミ袋に入れた。

中に人が入っていない着ぐるみ状態になったぬいぐるみを、今度は"洗濯機を貸して"と言って洗濯槽にそれを投入した。

『これでよし!1時間つけ置き洗いするんだよ』

と、使ったこともないうちの洗濯機を自在に使いこなし、テーブルに戻ってきた葉月。

『さて、マンガ描いてもいい?』
「うん、いいよ」
『でも、描いている間、ソラがやることないよね』
「いいよ。葉月が描いているのを見てるから」

すると、大きなカバンから原稿用紙、ペン数本、曲がった定規、インク、カッティングシートなど、あらゆる道具が出てきた。

原稿用紙を広げ、描き始める前に、葉月は俺の顔をじっと見た。

『よし!』

気合を入れて、描き始める。
俺はそんな葉月の顔をじっと見ていた。

真剣だ。
人が1つのことに真剣になる姿を間近で見ることなんてほとんどないだろう。

そんな彼女が、とても美しく思えた。
甘ったるい声に、容姿が中学生・・・には程遠い表情だ。

俺は今、真剣になれることが日常に存在するのだろうか。

B4の用紙に3枚ほど描いたところで、葉月はペンを置いた。
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