それでも、やっぱり君が好き。
 そう頭から振り払って、おかかのふりかけがかかったご飯を口に運んだ。


 それを頬張りながらポケットからスマホを取り出す。

 昼食時には必ず、スマホを持ってくるようにしている。なんでって……そんなの決まってるだろ。



「涼峰さーん、スマホやる?」


 もうロックを解除した、薄い長方形の携帯電話を宙に掲げてオレは言う。

 
 きっと、いつものようにこくこくと、小さな顔を頷かせるのだと思い込んでいた状況は、全く違う方向に進んでいくことになった。




「あっ、あの、そのこと、なんだけど……っ」



 箸を置き、どこか改まった様子で途切れ途切れに伝えてくる涼峰さん。


「?」


 その口から一体どんな言葉が飛び出すのだろうと見つめていても、なかなか言葉が出てくることはなかった。



「あー……。これって、オレ見ないほうがいい系?」



 なんとなく悟って、彼女から視線を外し、弁当に箸を入れながら一句一句逃さぬように耳を傾けた。

 普通なら少し悲しいことだけど、もうオレ耐性ついてきたっぽい。……メンタル鍛えられるな。



 屋上にはオレたち三人以外人の姿はなく、誰かが喋らないと遠くの生徒たちの騒ぎ声が耳に入ってくる。

 そんな沈黙にすら、もう慣れてしまった。


 彼女が喋るためにはたくさんの時間が必要だということだ。


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