それでも、やっぱり君が好き。
 視線を外してから約一分後、やっと沈黙に音が刻まれ始めた。


「あのっ、げ、ゲームの課金のことなんだけど……こ、これっ」



 涼峰さんはブレザーのポケットから、茶色で細長い封筒を取り出す。

 そして、それをオレに向かって差し出した。



「え……えっと……オレにくれるの?」



 小さく頷く彼女の顔は今にも崩れそうだった。



 受け取りたいけど、距離も距離。手を伸ばして取れる距離じゃない。茜が、邪魔。


 立ち上がって貰いに行きたいところだけど、無闇に近づいたら行けない気もする。



「近づいても、大丈夫?」



 ん? なんか変態っぽいぞ。

 言った後に感じたけど、本当に了解を取らなければいけないのだから仕方がない。


 うっ、と口元が引きつったのを見てしまったが、ぎこちなく呟いたその言葉はあの決意が言葉だけのものではないことを証明してくれた。



「……いい、よ……っ」



 もう、茜はなにも言わない。

 ただその成り行きを見守っている。



「じゃあ行くけど……無理っぽくなったらすぐに言えよ?」



 ……なんか、目の前に今にも泣き出しそうな女子がいると罪悪感感じるわー……。胸が苦しい。



 
 あぐらを解き、立ち上がって僅か一メートルの距離まで移動する。

 青くなった顔を俯かせる彼女と目線を合わせ、オレはちょっと困って微笑んだ。

 
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