京月君、ストーカーなんだって
その言葉を聞いた瞬間、私の時間が止まった。まるで海の中に入ったみたいに、息が詰まり、口内が渇いてゆく。

突然言葉を詰まらせた私を、美雪は怪訝そうに見ている。大変だ、誤魔化さないと。アレがバレるわけにはいかないから。


「無雪、どうしたの?」

「なんでもない。京月って大人しいイメージだったから、驚いただけ」

「ふぅん。でも無雪が驚くなんて、珍しいね」

「そう?私、よく驚く方だと思うけど」

「…それ、本気で言ってるの?」


美雪が眉を顰めた理由がわからず首を傾げるものの、溜息で誤魔化された。

それよりさ、美雪が小さな声で言う。いつもより顔が真剣だ。


「京月君、好きな女に近づく男は陰で消してるんだってさ。女でも馴れ馴れしすぎると恨まれるらしいし。

…とにかく無雪も気をつけなよ」

「……う、うん」

「でも、その、京月君の好きな女ってのも大変だよねぇ。ストーカー紛いのことされてさ。

ま、男っ気のない美雪には関係のない話か」


美雪はケラケラ笑ったが、私はどうも笑えなかった。代わりに重い罪悪感が心に枷を付けて、息がまた苦しくなる。

早くこの苦しさから解放されたくて、無駄だとわかっていても心の中で謝罪を繰り返した。


ごめんなさい、美雪。その、京月君の好きな女っていうのは


………私なんだ。
< 2 / 4 >

この作品をシェア

pagetop