玲汰、知ってる?
杉野がバトンを受け取った。現在の順位は5番目。
後ろとの距離は本当にわずかで、杉野がせめてビリにはならないように必死で顔を歪めている。
熱くなるのは好きじゃない。
そういう人たちをちょっと冷めた視線で遠くから見ているぐらいが丁度いい。
だけど青春は一度きり。
たまには雰囲気に流されて熱くなったり、
なにかに挑戦してみたり。
こういうのは楽しんだもの勝ちなんじゃないかって、なんだか今は無性に思う。
ああ、だからあいつはいつも楽しそうなのか。
だからあいつは……俺を面倒事に巻き込むのかもしれない。
「……杉野!」
俺は声を張り上げた。
息を切らせた杉野が近づいてくる。
右手を伸ばして赤いバトンに届く頃には杉野はひとり抜いていて、現在は4位になっていた。
「……ハア……ッ……池内、頼む」
崩れるように杉野からバトンを受け取った俺は勢いよく走り出した。