玲汰、知ってる?
「あの浴衣はさすがにもう着れねーよ。それに、あれはもううちにはない」
「………」
「いとこの小さい子にあげたよ」
ちょっとだけ、寂しそうな顔。
短冊が風に流れるのと同じように、
俺たちの時間も流れていく。
もう戻れないあの頃に、見落としてしまった感情はいくつあるのだろう。
せめて、可愛いと言ってあげれば良かった。
そうやって何度も思ったはずなのに、今はあの浴衣を着た莉緒を頭の中で想像して。
きっと綺麗だろうな、と言えもしないことを思うだけ。
「玲汰、射的やろうか。もし私が勝ったら……」
「………」
「ううん。賭け事はもうナシで」
そう、儚げに莉緒は笑う。
結局、俺はあの日と同じで全然弾が当たらなくて、棚に弾んで落ちたクマの指人形だけはおまけとして貰った。