玲汰、知ってる?

そのあと俺たちは歩道橋へと移動した。

下では変わらずに賑わっているのに、まるで別の空間にいるみたいに薄暗くて、ここは静かだ。


「……♪♪」

隣では莉緒が鼻唄を口ずさみながら、俺が射的で貰った指人形を人差し指に付けて遊んでいた。

その顔はいつもより穏やかで、鼻唄を歌うぐらいご機嫌になったならそれでいい。


「いつの間にか夜になっちゃったな……」

俺は独り言のように呟いた。


祭り会場では明るく周りを照らすように提灯がついていた。オレンジと黄色が混ざったような色。

川の水面にはその光りが反射していて、まるでそこにもうひとつの世界があるみたいに綺麗だった。


「玲汰って昔、短冊にお菓子の家に住みたいって女の子みたいなこと書いてたよね」

思い出したように莉緒が歩道橋の手すりに寄りかかりながらクスリと笑う。

本当にこいつは細かいことまでよく覚えている。


「……そういうお前は腕相撲で世界一になるって男みたいなこと書いてたじゃん」

そんなことを覚えている俺だって人のことは言えないけど。
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