玲汰、知ってる?
記憶力は良いほうじゃないのに何故か莉緒のことだけはよく覚えている。
それだけこいつが突拍子もないことをしたり、
印象に残ることばかりをしてたってことなんだろうけど……。
それでも、俺の思い出の中に必ず莉緒がいる。
「……今日、短冊書こうって言わなかったな」
前は祭りに来ると一直線で短冊が書けるコーナーに走っていって、太くてでかい文字で願いごとを書いていた。
一番目立つところにぶら下げるんだって言って、ムリして笹の上のほうに短冊を付けたがったりして。
だけど今日はカラフルな短冊が揺れるのをただ通りすぎるだけ。
「あの小さな紙じゃ書ききれないからな」
ざわっと莉緒の髪の毛が風に拐われる。それをそっと耳にかけて、その視線を星空へと向けた。
「今の私には願いが多すぎる」
それがなんなのか聞いたところで、こいつは答えてはくれないだろう。
16歳という子どもでも大人でもない狭間にいる俺たちは周りが思うより、ずっとずっと不安定で。
それなのに心で想う願いはお菓子の家に住みたいと夢いっぱいのことじゃなくて、とても現実的。
だから、気軽に口に出せなくなる。
俺の願いはなんだろう。
先のことは分からないから、せめてこういう穏やかな時間がずっと続けばいいと、そんなことを言ったらお前に笑われるだろうか。
「玲汰」
その大きな瞳に俺が映る。
「来週、約束のデートしようか」
莉緒が柔らかい顔でそう言った。