玲汰、知ってる?


言葉もろくに喋れないころからずっと一緒にいて、思い出の中にはいつも莉緒がいる。

一緒に成長してきた。


手を繋いで自分たちの影を追い回して遊んでた時も、内緒で親に嘘をついて秘密基地を作った時も。

泣いたり、泣かされたり、怒ったり、怒られたり、笑ったり、笑われたり、許したり、許されたり。

すべてのはじめては全部、全部、莉緒だった。


「玲汰、キスでもしてみる?」

そんな俺に届いた声。


「は、は?」

動揺しすぎて観覧車が揺れた。


密室された空間。

一周が終わるまであと10分。


「だってほら」

莉緒は観覧車のドアの上に貼ってある紙を指さす。

【頂上でキスをしたふたりはずっと一緒にいられる】なんてベタなことが書いてある貼り紙。

そういえばこれってカップル専用なんだっけ。


「す、するわけねーだろ」

「したことあるくせに」

「は?」

「あるじゃん」

保育園の時、たしかに一回だけキスをした。

でもあれはキスというより事故というか、俺の家でバカみたいに走り回って俺が滑って莉緒がそれを受け止めた拍子に唇がわずかに当たっただけ。

絶対に忘れてると思ってた。

それをキスだとカウントしてたなんて思わなかった。
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