玲汰、知ってる?

それが現実に思えなくて、またふざけてんのって言いたかったのに莉緒の顔は真剣で。

悲しいことに色々な違和感との辻褄が合ってしまう。


「……病気って?」

自分の声よりも心臓の音のほうがうるさい。


「高校に入学してすぐの4月の中旬。体調が悪くて病院に行ったんだ。風邪薬でも貰えればってそんな軽い気持ちだった」

そんなこと全然知らなかったし、そんな素振りも一切なかった。


「詳しい検査をして病気が見つかった。脳腫瘍って聞いたことあるだろ?」

……脳腫瘍。

もちろん聞いたことはある。でもそれはドラマだったり映画だったりフィクションとしての知識だけ。

違和感の理由をずっと知りたかったくせに心の準備なんてできてなくて、情けないぐらい動揺してる。


「……治るんだよな?」

だから、こんな言葉しか出てこない。

もうすぐ観覧車が終わる。高かった景色が地上に近づいていって、空の夕焼けさえ今は遠い。


「当たり前だろ!だからこうして遊園地にも来て学校にだって普通に通ってる。もし本当に具合が悪かったら今頃は入院してるって!」

莉緒の明るさを疑ってしまう。

そんな俺を見て莉緒が強めのデコピンをした。


「検査をした時、腫瘍は良性だって言われたよ。小さな腫瘍だし手術はしないで今は薬の投薬だけ」

「………」

「だから心配するなよ」

莉緒がデコピンをした流れで、俺のおでこをちょこんっと小突く。

その瞬間、観覧車が終わった。
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