玲汰、知ってる?
「俺はあの時、お前のほうが鬼に見えたよ」
あの瞬間から俺はこいつだけには逆らってはいけないと学んだ。
「曲がったことが嫌いなんだよ」
莉緒は豆まきの写真を通りすぎて、次の思い出の写真へと視線を変える。
性格がネジ曲がってるくせになにを言ってるんだと思ったけど、それは怖いから言わないでおく。
「莉緒のおばさんも姉ちゃんも普通なのにな」
莉緒のお母さんは若い頃、全国を対象にしたミスコンでグランプリを獲ったぐらいの美人で性格も穏やか。
4つ上の姉ちゃんも性格はサバサバしてるけど口は悪くないし、俺も本当の姉ちゃんのように慕っていた。
「あんたの初恋はうちのお姉ちゃんだもんな」
「……なっ」
思わず横になっていた体勢を崩した。慌てた俺を見て莉緒はニヤリとまた笑う。
「私が知らないとでも思ったのかよ。玲汰のことはお見通しなんだよ」
「………」
初恋といっても子どもの時に抱く年上の人への憧れのほうが強い。莉緒の姉ちゃんは大学に進学して地元を離れたし、それが恋だったのかと聞かれても正直わからない。
そういえば恋愛の話なんて、こいつとしたことがないかも。
もう身内みたいなものだし、わざわざそういう話題にはしないから。
「……お前の初恋って……」
話の流れで聞いてみたけど返事がない。耳をすますと、なにやら寝息のようなものが聞こえる。
さっきまで話してたくせに信じられねえ……。
その寝つきの良さにため息をはきながら俺は部屋の電気を消した。