玲汰、知ってる?

「ふたりともテスト勉強頑張ってる?」

それは母ちゃんだった。


「あれ、仕事は……」

「もう夕方よ。終わって帰ってきたに決まってるじゃない」

そう言われて窓の外を見ると、いつの間にか辺りが夕焼けに染まっていた。

どうやらわりと長い時間勉強してたらしい。
どうりで頭が痛いわけだ。


「あーで、さっきの話の続きは?」

莉緒へと視線を戻す。

少し無言になったあと莉緒は「内緒だったんだけど」と続きを話はじめた。


「私おばさんと約束してるから。玲汰が平均点以上取れたらケーキバイキングに連れてってくれるって」

「ねー。しかも高級ホテルのケーキバイキングよね」

それに賛同するように母ちゃんが少女のような笑顔を見せた。


「はあ?ケーキバイキング?」

またまた聞いてない話。


だから莉緒は俺に点数を取らせようと泊まり掛けで勉強を教えてくれてたってことかよ。

「頑張れたら玲汰も連れていってあげるわよ」と母ちゃんが誘惑する。

 
「勝手にふたりで盛り上がるなよ」

俺は不機嫌そうに教科書を閉じた。


「玲汰は甘いもの大好きだからなー。そこのバイキング40種類のケーキがあるらしいよ。しかもイタリアで学んだパティシエが作ってる」

「へえ」

「行きたいだろ」

「別に」

「強がるなよ」

莉緒と母ちゃんがニヤニヤしながら俺を見ていた。


……くそ。平均点以下を取ってバイキングに行かせないという手もあるけど、それじゃ俺の進級が危うくなる。

こいつらに贅沢はさせたくないけど、俺の甘党の血がざわざわと騒いだ。

俺も絶対ケーキバイキングに行ってやる……!
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